この恋を実らせるために
「堀田、なにしてるんだ。さっさと座れ」
俺たちは気心の知れた仲だが、知春にとってはいきなり連れてこられて訳がわからず動揺しているのだろう。扉の前から動く気配が感じられない。
知春を連れてくるなんて、相変わらずお節介だよな、と亮平からの急な誘いに納得したところで席を立ち知春に向かって行く。
「亮平は相変わらずだね。堀田さん、こちらにどうぞ」
知春の腰に腕を回し席まで連れて行く。こんな機会を作ってくれた亮平に心の中でこっそり感謝した。
初めは緊張で固くなっていた知春が運ばれてきた料理を美味しいと言って喜んで食べてくれたことに安堵した。
俺たちは食事の後、同じフロアにあるバーに移動して夜景を眺めながら飲んだ。
知春は意外にもアルコールに強いらしい。ディナーの時もワインを数杯飲んでいたのに、ここでもカクテルを頼んでいた。
「堀田さん、お酒好き?」
「はい、好きです!」
ほろ酔い気味の彼女の口から出た『好き』という言葉に俺の胸が熱くなる。俺に向けられた言葉ではないのに、なんだか嬉しくなった。
「俺も好きだ」
思わず溢れ出た気持ちはあまりに小さな声だった。たぶん知春の耳には届いていないだろう。
夜景を眺める綺麗な横顔にしばし見惚れた。
帰りのエレベーターで俺が送っていくと声をかけると、予想通り知春は全力で遠慮した。そんな知春に亮平が俺に知春を送っていくように指示を出すと「それじゃあ、すみません」と了承してくれた。
仕事でなくても知春は上司である亮平の言うことは聞くらしい。亮平との関係に引っかかりを覚えつつ、亮平からの好意を素直に受け取る。
エントランスでタクシーに乗り込むと知春に自宅の住所を運転手に伝えるように促した。
「えっと、たぶん私の家より三枝さんの方が家が近いと思うんですけど。なので、私は後で構いません」
「俺が先に降りたら堀田さんを送れないでしょう。だから、先に堀田さんの家に向かうよ。じゃないと堀田さんの上司に怒られちゃうからね」
おどけたようにしてみせると知春は気まずそうな顔から笑顔に変わった。