この恋を実らせるために
かわいい後輩と面倒な後輩
今朝も朝礼が終わると橘さんから声をかけられる。
「林、堀田、行くぞ」
橘さんのお決まりの言葉にも慣れ、準備も問題なくできるようになった。
「はい。今日はこのパソコンだけで大丈夫ですよね?」
「そうだな。今日は簡単な議事だけ残してくれればいいだろう」
「議事の記録でしたら念のためICレコーダーも持っていきますか?」
「いや、今回の担当は広報の方だから、堀田が気になったところを記録するだけでいいよ。むしろ、どんどん意見をぶつけてやれ」
橘さんはニカッと不敵な笑みを見せて会議室へと足を進めていく。
プロジェクト会議も回を重ねるごとに自分の考えを伝えられるようになってきてますます楽しくなってきた。
頼もしい後ろ姿を見つめ、新人の頃に戻ったような新鮮な気持ちになり、ふふっと笑みがこぼれた。
少し前まであんなに落ち込んで不幸のどん底にいると思っていたのに、橘さんから誘われたプロジェクトの話を受けてからは、毎日が楽しくて充実している。
橘さんと林さんに続いて会議室に入って行くと後ろから声をかけられる。
「こんにちは」
耳に届く三枝さんの声に心臓が跳ねる。
「ひゃっ、さ、三枝さん。こ、こんにちは」
私が林さんの横に並んで座ると三枝さんが隣に座ってきた。
私は橘さんや吉瀬さんと一緒に食事をしたあの夜から三枝さんのことを意識してしまっている。
あの夜、バーで隣に座った三枝さんが私にお酒が好きかと訊いてきて、思わず「好きです!」と即答した後、恥ずかしくなってしまい視線を窓の外に向けた。
直後、三枝さんから「俺も好き」と聞こえた気がした。
もちろん、お酒が好きだという意味での言葉だとわかっているけど、私に言ってくれたのではないか、なんて誤解してしまうほど甘い囁きだった。
その後「送るよ」と言って同じタクシーに乗った時の三枝さんがとても穏やかで優しくて、その優しさに甘えたくなった。
三枝さんのことが頭から離れない。たくさんお酒を飲んだ時っていつもは眠くてしょうがないのに、今夜はすぐには眠れそうになかった。
週末には三枝さんのことを考えないようにと家の掃除に没頭した。