この恋を実らせるために
「あれ? 今朝、電気消し忘れたっけか?」
彼の声が聞こえ、喜び勇んで玄関まで迎えに行く。
「おかえりなさい」
久しぶりに会えたと思い、笑顔で出迎えた。
「えっ!? 知春!? な、なんでいるんだよ」
慌てふためく彼にあきれた口調で返す。
「なんでって、久しぶりに仕事が早く終わったから会いたいなって。メッセージを送っておいたでしょう。そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「……メッセージ?」
ポケットからスマホを取り出した彼はメッセージを見て面持ちを変えた。
夕飯を作って待っていた私に以前なら相好を崩していたが、今の彼はまったく違う顔を見せたため今度は私が戸惑う。
「あ、もしかして、メッセージ見てなかった?」
「あぁ……」
立ち尽くす彼を見て不穏な空気を感じたところで私は完全にフリーズした。
「翔くん。どうしたの?」
可愛らしい声で彼の名を呼ぶ小柄な女性が彼の後ろから顔をのぞかせた。
「あ、ごめん。ちょっと外で待っててくれないか」
「え? なんで?」
不機嫌そうな顔をして答えた女性は、慣れた様子で部屋に入ってきた。
「お邪魔します」と一声かけるとラックに掛けてあるスリッパを履き部屋の奥へと進んでいく。その子はダイニングテーブルに私が並べておいた夕飯を見回し声を発した。
「わぁ、美味しそう。お姉さんって料理上手なんですね」
ニコリと微笑む彼女にどう反応したらよいのかわからず、彼を見やる。
「いや、真由。だから、ちょっと待っててくれないか」
あたふたと慌てる彼に対して、彼女はのほほんとした様子でソファにバッグを置く。
二人の様子に私は目を瞬かせることしかできない。
「翔。どういうこと?」
女性の後ろに付いている彼に問いかける。
「いや、あの、その……」
振り返った翔はしどろもどろになっていて会話にならない。彼の隣で明るい口調で話す声が耳に入る。
「翔くんのお姉さんですよね?」
誰が彼の姉だと言うのだろうか。
彼女の言葉に翔も私も反応できずにいると、テーブルにある蓮根のサラダをひょいと摘んで口に入れていた。
「翔くんから聞いてました。すごくお料理が上手なお姉さんがいるって。私、料理ができないので憧れちゃいます」
私のことを翔の姉と勘違いしているのか、無邪気な態度で話しかけてくる彼女の様子に言葉をなくす。
彼女は目の前でパクパクとつまみ食いをしては「本当にどれも美味しい」と言っている。この状況で料理の味を賞賛されても嬉しさはまったく感じない。