この恋を実らせるために
ここでようやく私は今日ここに来た時に感じていた違和感に気がついた。
2ヶ月ぶりに来たこの部屋は知らない物が増えていた。また冷蔵庫の中も翔が好んで飲みそうもないドリンクが冷やしてあった。
そうか……。そうだったのね。
違和感の理由がわかりそれに納得すると、心が急に冷えていくのを実感した。
エプロンを外して、カバンの中からこの部屋の合鍵を出してテーブルの上に置いた。
「鍵を返して」
自分の声とは思えないほど低い声だった。
「鍵って。知春、どうしたんだよ」
「どうした、じゃないわ。私の家の鍵を返して」
翔の前に手を出し、鍵を返してほしいと催促する。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
翔が動揺しているのがわかっていたが、私は毅然と対応する。
「キーホルダーを出して」
おずおずと出してきたキーホルダーを彼の手から取ると、自分の部屋の鍵を外しキーホルダーを彼に戻す。
「帰るわ」
バッグに自宅の鍵をしまい玄関に向かう。
「知春。待ってくれ」
「えぇ? お姉さんも一緒に食べましょうよ」
追いかけてきた翔の背後から甘えた声を出す女性は翔の腕に手を絡めていた。その腕をほどこうともしない翔に二人の関係がどういう関係なのか、理解ができた。
「悪いけど、帰ります。夕飯は二人で食べて。それと、私の物は処分してくれて構わないわ」
玄関で靴を履き背を向けたまま言葉を発する。
「さようなら」