この恋を実らせるために
「堀田さん。大丈夫?」
振り返らなくてもわかる三枝さんの声だ。三枝さんに声をかけられると同時に林さんの体が離れた。
「林くん、堀田さん困ってるみたいだけど、何をしたの?」
三枝さんが私を背中に隠して、林さんに向かって話しかけている。
「いえ。その……なんでもないです」
「そう、じゃあもう知春には手を出さないでね」
何かに気がついた様子の林さんはそのままトイレに向かっていった。
三枝さんの私を見つめる瞳が不安気に揺れていて、私はかける言葉がみつけられずにいた。
「帰ろう。送っていく」
「えっ? まだ終わってないですよね」
「亮平に断ってきてるから大丈夫。カバン取ってくるから先に玄関のところで待ってて。すぐに行く」
「……」言葉にはならず頷くことしかできなかった。
玄関に置かれていた椅子に腰掛けて、三枝さんを待つ。
「ごめん、お待たせ」
「いえ……」
三枝さんは「行くよ」と言って私の手を取りお店を出て歩いていく。
「どこに?」
「ごめん、一緒に来て」
手は繋がれたまま三枝さんは無言で歩いていく。
連れて行かれた場所は前に橘さんたちときたバーだった。三枝さんを見て頭を下げるスタッフに「奥の部屋空いてますか?」と尋ねている。
奥の部屋って、この前とは別の場所があるだろうかと考えていると、前に座った席のさらに奥にある個室に案内された。
「あの、ここは?」
「誰にも邪魔されずに話せると思ってさ。嫌だった?」
ブンブンと首を横に振る。
窓際と中央にソファが置かれていて、三枝さんは私をエスコートしたまま窓際のソファに腰を下ろした。
「お腹はいっぱいでしょう。先に飲み物だけでも注文しよう」
メニューを渡されダージリンクーラーを注文した。
「ロングカクテルでいいの? 酔いつぶれたら俺が介抱してあげるのに」
「か、介抱って。そんなになるまで飲みませんよ。だって、何か大事な話があるんじゃないですか?」
「うん。さっきのお店でもあまり飲んではなかったよね」
「え? 知ってたんですか?」
「この前よりペースがゆっくりだったよね」
頼んだドリンクが置かれると、本当に2人きりの空間になる。
お互いに一口二口と口に含んだあと少しの沈黙が流れる。夜景に意識を持っていかないと緊張で心臓がおかしくなりそうだ。