この恋を実らせるために

「堀田知春さん」

先に沈黙を破ったのは三枝さんだった。名前を呼ばれ三枝さんの方に顔を向けると、彼は体ごと私に向き合うように座っている。

「……はい」

すごくドキドキしてしまい心臓の鼓動が聞こえてしまいそうだ。

「好きです。ずっと前からあなたのことが好きです。俺と結婚してください」

真剣な顔で見つめられ、告げられた言葉に理解が追いつかず一瞬思考が止まった。

「えっ? け、結婚ですか!? あの、私たち、お話するようになったのって最近ですよね。なのに、いきなり結婚って……」

三枝さんの少し寂しそうな笑顔に胸がツキンとした。

「俺って狡い男なんだ。堀田さんが彼氏と別れたって聞いて、傷心に付け込もうとするくらいにさ。本当は時間をかけて俺のこと好きになってもらおうとしてたんだけど、さっき林くんが堀田さんに触れてるのを見たら、なりふりなんて構っていられないってわかったから。だから、俺と結婚してください」

「で、でも、こんな急に……」

「自分で言うのもなんだけど、俺って結構優良物件だし、知春のこと誰よりも大切にするし、良い夫になるよ」

優良物件なのはわかってるし、きっと良い夫になることも想像できる。

私が返答できずにいると、膝の上に置いた手の上に三枝さんの手がそっと載せられた。

「知春は俺のこと嫌い? こうして触れられるのが嫌なら跳ね除けてよ。じゃないと俺、もっと近づいていくよ」

言葉通り三枝さんの体が少し近づいてきて膝が触れた。

「いいの? なんの抵抗もされないと俺、止まれなくなるかもしれないよ」

「……止まらなくていいです」

小さな声だったけど三枝さんの耳には届いたらしく、三枝さんは目を丸くしていた。

「ごめん。じゃあ遠慮なく」

私の耳元で囁いた三枝さんは膝の上にあった手を後頭部に回し、唇を重ねてきた。

一度重なった唇は角度を変えて深くなっていく。

名残惜しそうにゆっくりと離れていく三枝さんが、私を見て破顔していた。

「もう誰にも触れさせないで。俺だけの知春なんだから」

両手でしっかりと抱きしめられた。

「私もあなたが好き……」
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