この恋を実らせるために
朝食を済ませた俺たちは手を繋いで駅に向かう。
「そうだ。会社に忘れ物があったんだ。寄ってもいいかな?」
「いいですよ」
駅を越えて会社に着くと守衛さんに社員証を見せてエレベーターに乗り込む。
土曜日なので基本的に出勤している人はいない。静かな会社って新鮮だな、と思っていると「少し待ってて」と達也さんは離れていく。
戻ってきた達也さんは小さな紙袋を持っていた。
「忘れ物あったんですね」と声をかけたら、紙袋を私の前に差し出してきた。
「これ。ずっと知春に渡したかった物なんだ」
「なんですか?」
「見てみて」
袋の中にはハンドタオルとラッピングされた小さな包みが2つ。包みの中身はお礼のタオルと最近買ったネックレス。
「このタオル、昔に知春が俺に貸してくれた物だよ。ずっと渡したかったんだ。それとタオルのお礼ね」
「これって、いつの……」
「覚えてない? 知春が高校生の時にタオルで冷やした方がいいってくれたんだよ。あの後しばらく持ち歩いていたんだけど、会えなかったから渡せなくてさ」
「あ……。もしかして、あの時女の人に叩かれてたお兄さん?」
「ぷはっ。思い出してくれた? 俺さ、あの時からずっと知春のことが忘れられなくて、初めて恋を知ったんだ」
「あんなちょっとのことですよ。会話だって少ししかしてないし」
「恋をするのに時間は関係ないよ。本当に一瞬だったんだ。知春の笑顔が脳裏に焼きついてしまった。だから、責任取ってね」
呆然とする知春にチュッとキスをした。
キョロキョロして真っ赤になる知春にますます溺れそうだ。
1日も早く籍を入れてしまおう。
俺は早速、知春の両親への挨拶をするために連絡をお願いした。
後は俺の親に紹介してしまえば、もう誰も知春に手を出してくる奴はいなくなる。