この恋を実らせるために
「達也さあ。まだ堀田のこと諦められないか?」
「なんだよ。急に」
「いや、今日営業先で俺に声かけてきた女がいてさ。それで『気になる女性がいるから、彼女以外の女性から誘われても断るようにしてるんだ』なんて、堀田の方を見ながら言ったんだ」
俺が言うのもなんだが、亮平はいい男だ。こんなに頼りになるヤツはそうそういない。だからこそ、『ちはる』が亮平と一緒にいると不安になる。
「それで、彼女はどうしたの? なんて答えたの? まさか告白されたりしたんじゃないよな!?」
まさか、亮平に気があるのではないかと気が気ではなかったが、違った意味で亮平の答えに俺は絶望した。
「ああ、彼女『私には彼氏がいるので橘さんの気持ちには応えられません』だとさ。だから、ああ言っておけば営業先で変なのに絡まれても断りやすいだろうって教えておいた」
亮平なりに気を遣ってくれたのはわかるが、こんな話は聞きたくなかったというのが正直な気持ちだった。
少しずつ近づいて、彼女の視線の先に俺の存在が留まるようにしていきたいと、そう実行に移すところだったんだ。
落胆を隠せない俺に亮平は「飲みに行くぞ」と行きつけのバーに連れていってくれた。
ここまでくすぶらせてしまった気持ちは簡単には断ち切れない。
でも、彼女が楽しそうに笑ってくれるのを見ていられるなら、『ちはる』が幸せになってくれるならそれでいい。
そんなことをつぶやいていた俺に亮平は「重症だな」と一言漏らすと、俺の目の前に置かれたグラスにカチンとグラスを合わせてきた。
長年の恋はどれだけ飲んでも忘れられず、俺は『ちはる』が幸せになるのを見届けようと静かに決意した。
『ちはる』が幸せになってくれないと、俺も次に進めないと思っていた。