この恋を実らせるために

新たなチャレンジと再チャレンジ


あの最悪の夜から1週間が経過した。

「外回り、行ってきます」

今日は午後から担当地区にある飲食店に営業しに行くことにしていたので、スケジューラーに『外出』と入力し、その場にいた人に声をかけて職場を離れた。

バッグにはタブレットとパンフレットを入れ、いつもお世話になっているお店に向かう。

「こんにちは。エイスビバレッジの堀田です。いつもお世話になっております」

体調も気持ちも元通りとはいかないが、今まで通りの営業スマイルと明るい声音で店内にいる方へ声をかける。
すると店の奥からパタパタと聞こえた足音とともに着物にかっぽう着を着た女性が姿を現す。

「あら、知春ちゃん。こんにちは。こちらこそ、お世話になってるわ。どうぞ中に入ってくださいな」

元気な女将さんに勧められ、店内へと歩を進める。ここは女将さんが一人で切り盛りしている小料理屋さん。

「ご無沙汰してます。女将さん、お元気ですか?」

「私は元気よって、そう言う知春ちゃんは痩せたんじゃない? なんだかあなたの方が元気じゃなさそうよ」

母親ほどの年齢の女将さんは、私が訪れるたびにいろいろと気にかけてくれる第二の母のような人。

「そうですか? 私も元気ですよ。でも、今日の営業はここで4件目なので少し疲れてしまったみたいです」

あの最悪の日からしばらくは食欲がなく、確かに少し痩せたのかもしれない。それでも時間とともに、記憶は薄れ体調は戻っていくと信じている。
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