再び縁結び
13ー切ない恋の味
ある仕事が終わった夜、飛竜と数川はラーメン屋のカウンター席に隣で座っていた。2人の席にも調味料がたくさん置かれている。数川は久々の家系ラーメンにソワソワしていた。そんな彼女が可愛らしくて飛竜の目元が緩む。
「数川先生って、家系ラーメンとかよく行くんですか」
「いえ、久しぶりで。甘夏小学校に異動してきた時に幸助先生に連れてってもらった以来ですかね。その時に入ったお店、注文が独特で結局、幸助先生に頼んでもらったんです。懐かしいなぁ...」
数川から出された"幸助“と言う名前に飛竜は少し顔を歪ませた。飛竜は無理矢理笑顔を作った。そして乾いた笑い声。
「ははは...確かに、注文が細かいと言うか独特なお店とかもありますよね〜」
「本当そうですよっ。で、その幸助先生に選んでもらったらニンニク多めで、味濃いのあまり食べたことなくて。で、一回食べてみろって、幸助先生に言われて、食べてみたらとても味濃くて、美味しくてっ」
数川の幸助とのエピソードは止まることを知らなかった。1つ彼との過去話をすると次々と思い出す。
「へえ、数川先生は福田先生とたくさんの思い出があるんだな」
彼がそう言うと、彼女は飛竜に視線を向けずどこか遠くを見て目を細め、柔らかい表情を浮かべる。その表情はどこか寂しさも混じっているように飛竜は見えた。
「...そうですね。でも、あの時みたいに幸助先生は私を誘ってくれることなくなりましたし、嫌われちゃったのかなって。私が不甲斐ないのがいけないんですけど...。いつかまた前みたいに、2人で食事とかに誘ってもらえたら嬉しいんですけど」
しんみりとした空気が2人の間を彷徨っていると、目の前にラーメンが置かれた。飛竜のもやしラーメンと数川のニンニク野菜ラーメン。
「こちら、もやしラーメンとニンニク野菜ラーメンですっ、どうぞ、ごゆっくり」
店員が元気にそう言うと、厨房へ戻っていった。2人は同じタイミングで箸を割り、胸の前で手を合わせて「いただきます」と声が重なる。飛竜は麺を啜り始める。麺の上に乗っていたもやしのシャキシャキとした食感が心地よい。数川は、レンゲでスープをすくい少し飲みこむ。飛竜は、チラッと横に視線をずらし、数川を盗み見する。
「...美味しい」
彼女は幸せそうな表情を浮かべていた。美味しいラーメンを食べていることについてなのか、それとも幸助との懐かしき思い出を浮かべているのか。
「美味しいっすよね、本当」
飛竜にとって数川から距離を置かれているような感じがした。同僚以上、友人未満程度の。ニンニクの強い香りが鼻をつんざく。ずっと想いを寄せていた彼女と楽しみにきたはずなのに、麺の食感が感じられない。彼女の幸せを願うしかないのか。と、飛竜は自問自答した。

