再び縁結び

14ー飛竜の新たな恋心


[飛竜視点]

 放課後、ファイルを抱え教室を出ようとした。昨夜のことを思い出す。昨夜は数川先生とラーメンを食べに行った。楽しい時間ではあったが彼女の話の中心は、福田幸助なのだと痛く突き付けられたのだ。教室を出ると秋海棠先生がいた。彼女は俺に軽く手を振る。

「飛竜先生」

「秋海棠先生、今日も疲れましたな」

「ですね。そう言えば、音葉先生から聞きましたよ。昨日の夜、飛竜先生とラーメンに行ったんですってね。聞きましたよ、飛竜先生と話すと楽しいって」

 彼女は興味津々な顔を浮かべた。バツが悪くなり俺は秋海棠先生から視線を逸らす。きっと彼女は俺と数川先生の関係が進展したのか気になっているのだろう。

「...秋海棠先生はどうなんすかっ、東雲先生の事好きなんだよな」

 俺も反抗するようにニヤニヤして彼女に聞き返す。彼女の頬は赤く染まる。腰に手を当て頬を膨らめた。

「そ、そ、そんなの飛竜先生には関係ないでしょっ。東雲先生はただの同僚ですよ」

 明らかにこの動揺は図星だ。だが、彼女照れた表情はすぐに消え、曇ってしまう。そして、どこか遠くを見る。そんな彼女が心配になる。

「急にどうしたんすか、秋海棠先生」

「...最近、よく他の人も話してる東雲先生の噂知ってますか」

 その噂はちょっとだけ耳にしたことがある。詳しくは知らないが、学校の生徒の母親らしき人物と親しそうに話してたと言う内容だ。ある保護者が見ていたみたいで瞬く間に広まってしまった。

「あぁ、あれか。だけど、俺は東雲先生に似てる人の可能性もあると思いますよ。なんせ、噂はただの話でしかないですからね」

「噂で、東雲先生が傷付くのは見たくないです。でも本人に直接聞くのは嫌で」

 あぁ、やっぱ秋海棠先生は東雲先生のことが好きなんだなと良くわかった。そして、彼女は本当に優しい心の持ち主なんだと。それと同時に東雲先生には秋海棠先生の気持ちに気付いて欲しい気持ちも湧いて来たのだ。

「東雲先生が痛むの嫌なんですね、かなりお優しい心の持ち主で。俺も見習わなくちゃいけないって思ってますぜ」

 明るく言ってみたが、彼女の表情は曇ったままだった。噂が本当の可能性だってあるのだ。幸助と数川先生が付き合ってると言う噂みたいに。本当は付き合ってないが、数川先生の心は幸助の事ばかりで埋め尽くされているのだ。

「前に、東雲先生に秋海棠先生は、大恋愛したことありますかって聞かれたことがあったんです。その時、ちょっと期待しちゃった自分が馬鹿みたいです」

 彼女はそう言うと少しだけ笑った。無理して笑わなくても良いのにと思ってしまう。秋海棠先生は、廊下の窓から外の景色を見つめた。緑の木々が生い茂っている。風がふわっと彼女の髪を靡かせた。俺は、まだ誰にも話していない秘密があった。彼女になら話しても大丈夫だろうと思った。

「...俺、新たに気になる人ができたんです」

 勇気を出して言うと、彼女は俺の方にくるりと振り向き目を見開いた。

「...え、誰ですか」

「...まだ、1回くらいしか直接しっかりと話したことないん人ではあるんすけど、その人が暗い顔してる時に守りたいなって思って」

 俺は、バツが悪くなり秋海棠先生から目を逸らした。彼女から見た俺の今の顔は、林檎のように真っ赤になってるんだろうな。だが、気になった相手が俺にとって悪すぎる。軽い気持ちで恋愛できるような相手ではないのだから。

「...飛竜先生、それって」

 多分、彼女も誰とまではいかないが何となく察しがついてしまったのだろう。同じ立場である人に恋していたほうが楽なのは知っている。それなのに、どうして俺は。あの人の事が気になってしまうんだろう。

「...秋海棠先生、他言無用でお願いするんだぜ」

 そういうと、彼女は笑いを堪えきれず吹き出してしまった。彼女の反応に頭の整理が追い付かず、はてなが浮かんだ。

「ふふ、飛竜先生...。他言無用って言ってますけど、私に秘密漏らしちゃって大丈夫なんですか。そういう恋は、自分の中だけに留めておいた方が楽ってものですよ。でも、嬉しいです。私は、同僚から信頼される人間ってことわかったので。飛竜先生のその恋、全力で応援させていただきますからねっ」

 そう言いながら、彼女は軽く俺の腕を叩いた。...なんだか、彼女に打ち明ける事ができて、重荷が降りた。そんな気がした。

「うっ、詩織先生にそう言われると心が救われるぜ。おう、お互い頑張ろうな」

「もし、私が東雲先生と結ばれるより早く飛竜先生がその人と結ばれたら、飛竜先生とその人に何か美味しいものでもご馳走してあげますから、楽しみにしててください」

 彼女は、拳を突き出す。俺もそれに応える様に拳を差し出し、彼女の手に合わせた。きっと俺達は叶うかわからない恋をしている者同士だ。だからこそ、俺も彼女を全力で応援する。
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