一匹狼の同僚が私とご飯を食べるのは
「いい案を考えるどころか、思考が溶けそう……頬も目玉も落ちちゃう」

 ひと口ごとにうっとりと目を細めるけれど、お料理そのものだけでなく量も「上品」だ。
 どれも大きなお皿の中央に、ほんのちょっぴり乗っているだけ。
 なんだか物足りないと思いながら、なにげなく吉見さんを見た。
 彼はずっと無言だ。
 眉ひとつ動かさず、淡々と食べている。
 流れるような所作は感じがいいなと思うけれど、美味しいのかそうでないのかさっぱり伝わってこない。
 そういえば、と思い出した。

「この前の吉見さん、お昼がゼリーだけだったから驚いちゃった。うちに来たばかりなのに、もうがっつり働かされてるね」
「そうでもないけど。先輩の手伝いが主で、メインで担当するのは目白さんのやつだけだから。残業もほぼなくて楽」
「でもお昼があれだけって」
「なに? 毎日、そうだけど」
「そうなの!? えっ、ほかには? だってゼリーだけじゃお腹空くよね?」
「必要なカロリーは取れてる」

 メインである仔羊のローストを頬張る手が止まってしまった。
 そんな馬鹿な。あんな味も素っ気もないもの、食事が楽しめないではないか。
 私も飲んだことがないわけじゃないけど、正直言ってよっぽどのことがない限りお世話になりたくない。
 私の目の前で、宝石のようにうつくしいロゼ色をした仔羊が、そうだそうだと同意している。
 われに返って肉を噛みしめると、ミルクのような香りが鼻に抜け、生命力にあふれた弾力に私の生気も充填されるよう。
 はぁ、ととろりとしたため息が出る。

「あっ、あれだよね。おやつどきにはちゃんと食べるとか、夜に二食分食べるとか、そういうことよね?」
「なんで。夜も似たようなもんだけど」
「えええ……? なんでそんなことに」
「おなじカロリーを取るなら、効率的に取れる手段を選ぶ。それだけだけど」
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