幼なじみは狐の子。5〜親衛隊と恋〜
場所を変える事になって、恋達は逃げる様にシートを畳んだ。
次に理央が恋達をつれていったのは駅前の通りのカラオケだった。
モダンな内装をして、ソフトクリームが食べ放題のそのカラオケの店員は、
「7名様ですね」
と言って天井にミラーボールの付いた部屋に恋達を案内した。
「みんなでカラオケ来るの、初めてだね。」
明かりを暗くした部屋でミラーボールをオンにしながら、理央が言った。
「恋は音痴だから歌えないよ。もっとも、みんなで来てるからには下手でも一曲は歌わなきゃだけど。それがマナー。」
「上野くん歌上手かったよね?」
「僕は歌える。別に歌うの好きなわけじゃないけど。母さんがポップス聴くから、僕も曲結構知ってるよ。歌は簡単、曲に合わせて自然にしてれば音は外さない。」
「樋山くんも歌得意だったよね?」
「割かしね。僕は海外のアーティストに好きな歌手が居て、普段はクラシックとそればっかり聴いてる。最近の曲は流行ってるのなら歌えるかな。CMソングとか、歌詞見ればだけど。」
「僕は……歌ったらびっくりしますよ。歌ってからのお楽しみ。」
律はなぜか不敵ににやりと笑った。
「私歌得意よ。マイク大好き。私から歌っていいかしら。」
伊鞠がマイクを手に言った。
「どうぞどうぞ。恋、デュエットしようよ。うまくなくても声張ればなんとかなるって。」
最初に歌った伊鞠は歌がうまく、ビブラートを効かせて最後まで熱唱した。
次に歌ったのは宗介だった。
宗介は流行りのポップスを甘い声で難なく歌い上げ、恋が押していた歌の採点はなんと100点だった。
「すご、100点」
「自己採点では90点位」
「上野くんはまず声が良いよね。」
歌の得意な理央がフリを付けながらアップテンポのノリノリの曲を歌って採点すると95点だった。
美風は緊張するからと言って採点をオフにしたが、美風の歌も完璧に上手かった。
「うーん、いい声。聞き惚れる。」
「樋山くんは英語で歌うんだね。」
「日本語より歌い易いんだよね。なぜか。」
歌い終わると美風は恋に笑顔でマイクを手渡した。
恋と理央はデュエットをした。
恋は小さな声でぼそぼそ歌い、声を張る理央と違うパートなのに時々釣られた。
次は桂香だったが、桂香は手を振って歌わなかった。
桂香は歌よりは食べ放題のソフトクリームに興味があるようで、何回もおかわりに席を立っていた。
律の番になるとみんなはずっこけた。
律は、声は大きいのだが音程は駄目駄目だった。
ギャグの様な音痴で、律は歌を歌いきるとケラケラ笑った。
「僕べらぼうに音痴で。キャラにするしかないんですよ。」
「そこまで下手っていうのも珍しいね。」
「良いじゃん良いじゃん。ねえ、上野くんと樋山くん、2人でデュエットしてよ」
理央が言った。
「は?」
「良いけど嫌だ、上野と歌うのは。」
嫌がる2人に理央は無理やりマイクを持たせた。
歌の上手い2人のデュエットは聴き応えがあった。
女性のシンガーソングライターの曲を歌ったのだが、2人の甘い声で、女の子なら誰もが聞き惚れてしまいそうな歌だった。
「おしまい」
歌が終わると宗介がマイクに向かってきっぱり宣言した。
「サービス。もう歌わない。」
と言いながら美風が席に付いた。
恋はマイクを片手にまた熱唱を始めた伊鞠の歌を聴きながら、さっき2人のために貰ってきたドリンクをテーブルに置いた。