副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「では、本日はこれで失礼いたします」
「あぁ、わかった。気をつけて帰ってくれ」
「はい。ご利用、ありがとうございました」

 わざわざ玄関まで見送りに来てくれた彼に深々とお辞儀をし、エレベーターに乗り込む寸前まで息を詰める。
 けれど、エレベーターが下がった瞬間、私はぷはーっと息を吐き出した。

「びっ、くりした……」

 なんで、よりにもよって依頼人が元彼なのだろう。
 もっとちゃんと確認してから仕事を選べばよかったと、いまさらながら後悔する。

 そもそも、彼の家には他のスタッフが向かう予定だった。たまたま、そこに向かうはずのスタッフが急病になってしまい、フリーだった私が彼の家に回されたのだ。

 本来、依頼がないスタッフは事務所で待機することになっている。
 待機スタッフは、外へ出ているスタッフの代わりに溜まっている事務仕事をしたり、事務所内で発生した雑務を捌いたりするのだ。

 私は火木土の夜八時から十時の短い間でしか働いておらず、どうしても指名が取りづらいため、フリーになりがちだ。
 生活サイクル的にもその方が有り難く、事情をよく知る所長があえて私をフリーのスタッフとして雇ってくれている。
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