副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「それでは最後に、電子サインをいただけますか」

 最後に、すべての仕事が滞りなく終わったことを証明するためのサインを依頼人から受け取る必要がある。
 彼はタブレットにサインをしながら、次回も波留に家事を依頼したいと、とんでもない爆弾を落としてきた。

「えーっと、継続利用されたいと……」
「そう言っている。確か、指名もできるだろ?」

 彼からタブレットを返され、最後に担当者のサインも入れる。それを保存すれば、今日の業務は終了だ。
 あとは、彼からの継続依頼を断りきれたら、の話だが。

「できますけど……。でも、決めるのは他の方を試してからでもよいのでは……?」
「俺は波留がいい。知らない奴を自分の部屋に上げたくない」

(いや、今日来たのが私じゃなかったら、知らない人を家に上げることになってましたけど!?)

 そう心の中で反論しながらも、顔には出ないよう、にっこりとスマイルを浮かべる。

 私は引き攣りそうになる表情をなんとか引き締めながら、タブレットを鞄にしまった。

「では、アプリのマイページからお申し込みください」
「いま、ここではできないのか?」
「できないこともありませんが、よく考えてからのほうがよろしいかと……。一度、設定しますと、なかなか変更が難しくなりますし……。それに、私は週三回、決まった時間でしか出勤しておりませんし……」

 言外に別の人を指名しろと伝えたけれど、彼は引き下がるつもりがないのか、そうする、と頷くのみだった。
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