副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「上手に描けてるねぇ」
「でしょお!」

 褒められて嬉しいのか、紬がその場でぴょんぴょんと跳ねて、くしゃりと笑う。
 イルカは紬のお気に入りだ。昔、水族館へ行った際、私が買ってあげたぬいぐるみで、夜間託児所へ向かう際にはいつもリュックの中に入れている。
 絵を見たら恋しくなったのか、紬は私に背中を向けた。

「いるかさん、出して」
「はいはい」

 紬から絵を受け取り、代わりに紬にはリュックから出したイルカのぬいぐるみを握らせる。
 ぎゅうぎゅうと強く握りすぎて、すっかり形が変わったイルカのぬいぐるみに、紬が頬ずりした。

「さ、早く帰ろうね」
「うん!」
「桃井さん、連絡帳」
「ありがとうございます」

 この、ひまわり夜間託児所では忙しい合間をぬって、先生がその日の様子を簡単に書き留めてくれる。
 何をして遊んだのか、おやつやジュースを口にした際は何を食べていたのかなどを、わかりやすくまとめてくれるのだ。
 こんな時間まで子どもを見てくれるだけでもありがたいのに、こうした細かいところまで手間をかけてくれるから、多少家から遠くても預け先をなかなか変えられなかった。
< 14 / 60 >

この作品をシェア

pagetop