副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
 完全に板挟みになってしまい、ハァ、とため息をつく。
 すると、紬がう〜んと唸った。

「ごめん、起こしちゃった?」
「ママぁ、おうちついた?」
「まだだよ。これから電車に乗るの」
「つむぎ、でんしゃすきー!」

 眠気が少し飛んでいったのか、紬がふにゃふにゃと笑う。
 
 やっぱり、彼と目元や表情がそっくりで、紬を通して彼の姿を思い出してしまう。
 早く、今日のことは忘れなければならないのに。

「もうちょっとで駅に着くから、電車に乗ったら起こしてあげる」
「ほんと?」
「だから、もうちょっとだけ寝ててもいいよ」

 紬を抱き直して地下鉄の階段を降り、人が疎らになった電車に乗り込む。
 電車に乗ったあと、一応紬を起こしてみたけれど、また強い眠気がやってきたのか、そのまま膝の上ですやすやと眠ってしまった。

 そんな天使のような寝顔を眺めながら、鞄の中に突っ込んだままのタブレットを開く。
 どうか彼からの依頼が飛んできていませんように、と祈ってみたけれど、無情にも彼からの指名メールが飛んできていて、私はまたしても深いため息を吐いたのだった。
< 17 / 60 >

この作品をシェア

pagetop