副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「仕事の付き合い柄、よく貰うんだ。よかったら、娘と一緒に食べてほしい。中身は食べやすいクッキーだから」
「いいの?」
「もちろん。むしろ、次からは本当に連れてきても大丈夫だから」

 最後の最後まで連れてくることを前提で話されてしまって、私は苦笑いを零す。

「それは、さすがに迷惑になっちゃうから……」
「まだ娘は小さいのか?」
「いや、もう五歳だ、けど……」

 ぽろっと娘の年齢を言ってから、ハッと口元を押さえる。
 いろいろバレやしないかとヒヤヒヤしたけれど、彼の表情は変わらなかった。

「……だったら、なおさら会ってみたい」

 前言撤回。やっぱり、今のでさらに確信に近付けてしまったかもしれない。
 私の馬鹿! と心の中で叱咤しつつも、また機会があれば連れてくると濁した。

「それじゃあ、また。おやすみなさい」
「おやすみ」

 静かに扉が閉まって、張り詰めていた息を吐き出す。

(どうしよう……。紬のことがバレて困っているはずなのに、彼が紬を拒絶しないことがこんなにも嬉しいなんて……)

 自分でも、相反する気持ちに戸惑いを隠せない。

 私は彼からもらった紙袋をぎゅうっと胸に抱きながら、もう一度ため息を吐いた。
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