副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
 すっかり固まってしまった私を心配して紬が服の裾を掴む。
 なんでもないと笑って、紬が選んだお店へ向かおうとしたときだった。
 振り返ったら、見覚えのある男性のシルエットが目にとまった。

(あっ……)

 ゆっくりと彼も振り返って、視線が絡み合う。まるでスローモーションで再生された映画みたいに、たった数秒の出来事がとてつもなく長く感じた。

「つ、紬。やっぱり、別のお店にしよっか?」
「えー! やだ! さっきのとこでケーキたべたい!」
「そうだよね。でも……」

 なんとか紬を引っ張って行こうとする私の前まで彼が歩み寄ってくる。

 ぴたりと彼が止まって、私と紬を交互に見た。

「これはどういうことでしょうか?」
「えっ、とぉ……」

 他所行きスマイルでにっこりと微笑む彼を見て、紬が「だーれ?」と首を傾げる。

 彼はしゃがんで紬と目線を合わせると、こんにちはと微笑んだ。
 紬もそれにつられたのか、くしゃりと笑って、こんにちは! と元気に挨拶する。

 色素の薄い目も、艶のある黒髪も、笑い方も、顔のパーツですらも、二人が並ぶとよく似ていた。

「随分と俺に似てるな」
「…………」
「で、どういうことか説明してくれるよな?」
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