副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
 彼に見送られながら部屋を出て、エレベーターに乗り込む。
 そうしてエントランスまで向かい、マンションを出る間、下からじっと紬に見上げられていた。

「どうしたの、紬」
「ううん、なんか、ママ、うれしそうなかおしてるね」
「嬉しそう?」
「うん。なんか、たのしそう?」

 よくわかんない、と匙を投げた紬がおかしそうに笑う。
 だけど、私にとっては笑えない。

 だって、私は困っていたはずなのだ。
 彼から今もまだ好きだと言われて。
 私のことも紬のことも好きだと言われて。
 あんなふうに抱き締められて……。

「……っ」
「ママ、おかおあかーい! おねつある?」

 紬にペタペタと頬を触られて、自分の顔が熱くなっていることに気付く。

(どうしよう。このままだと、私はまた彼のことを……)

「ママ?」
「……ごめんね、紬。熱はないから大丈夫よ」

 紬の柔らかな髪を撫でる。
 夜風に当たってもしばらくは頬の熱が引いてくれなかった。
< 45 / 60 >

この作品をシェア

pagetop