副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
 無意識のうちに彼の背に回しかけていた手を引っ込める。
 軽く彼の体を押し返したら、ちょうど紬が起きたのか、ソファーの方からぐずる声が聞こえてきた。

「んーー、ママぁ」
「紬、起きちゃった?」

 彼に、ごめんねと謝ってから、紬の方へ向かう。
 寝起きで機嫌があまり良くないのか、紬はうんうんと唸っていた。

「紬、帰ろっか」
「ん…………」

 目元を擦り、ふわっとあくびをする紬を抱き上げる。

 なんだかんだ、彼の家に来てから数時間は経っている。もう日も沈んでしまったし、そろそろお暇する時間だろう。

 私は紬を抱き上げたままソファーの近くに置いていた鞄を肩に掛けると、今日のところはそのまま帰ることを伝えた。

「送っていく」
「いいよ、大丈夫」
「だが……いや、無理強いはよくないな。またね、紬ちゃん」
「うん」
「またいつでも遊びに来ていいから」
「ほんとぉ? また、おままごとしたい」

 ぽんぽんと優しく紬の頭を慎也さんが撫でる。紬も紬で少しだけ機嫌を良くしたのか、にこりと笑った。

「またねー」
「またね、紬ちゃん。波留も、また」
「はい」
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