副業家政婦の仕事に『元彼社長からの溺愛』は含まれていないはずなのに
「すっごい! おさかなさん、およいでる!」
「すごいだろう?」

 アクアリウム型のレストランらしく、紬の目はそちらに釘付けだ。
 美しい夜景を眺めながら、ゆっくり食事を楽しめるコンセプトらしいが、既に紬は食事よりも水槽の方に夢中だった。おまけに個室になっているから、はしゃぎ放題である。
 そんな紬をしばらく二人で眺めていたけれど、やがて彼が居住まいを正して紬の名前を呼んだ。

「紬、今からちょっとだけ、ママとお話していい?」
「うん、いいよ」

 子どもながらに何か思うところがあるのか、紬がお行儀よく椅子に座る。
 私も彼のただならぬ様子に姿勢をピンと伸ばした。

「まずは波留、そして紬も。今日は来てくれてありがとう」
「こちらこそ、誘ってくれてありがとう」

 お礼を言うのはこちらだと頭を下げる。
 レストランへ行くためのドレスも靴も用意してくれたのだ。魔法をかけられたみたいに綺麗にされて、今日この場へ来ることができただけでも贅沢な贈り物だった。

「引っ越してきてから、ちゃんと言えてなかったが……。波留、俺と結婚してほしい」

 そう言って、目の前に小さな箱を置かれる。真っ赤なジュエリーボックスだ。
 そっと彼の手で蓋を開けられ、美しいダイヤの指輪が顔を出した。

「この先も、ずっと傍にいてほしい」
「……っ」
「波留を愛してる」

 飾らない言葉で、ストレートに想いを告げられて、涙が込み上げてくる。
 私はこくこくと頷くと、彼に左手を差し出した。

「波留、泣かないでくれ」
「だって……!」

 真っ白なテーブルクロスに涙が馴染む。

 彼に恭しく左手をとられ、ゆっくりと指輪がはまっていく瞬間を、私はこの先、一生忘れることはないのだろう。

 まるで愛の証人だと言わんばかりに紬が笑顔で私たちを見つめ、彼が涙で濡れた頬を優しく包み込みながら私に愛のこもったキスを送ってくれたのだった。
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