代理お見合いに出席したら、運命の恋が始まりました~社長令息は初心な彼女を溺愛したい~
 でも七海は彼の心情が推察できた。

 なので否定する。

「そんなことありません。タイミングが悪かったんです」

 実際、あそこで飲み物が零れるトラブルがなければ、七海はそのまま話を聞いていたはずだ。

 不意打ちで知る形にはならなかったといえる。

 だから玖苑のせいではない。

「……七海さんは、優しいんですね」

 玖苑は安堵したように、頬を緩めた。

 それで七海を褒めてくれる。

 彼の罪悪感を減らしてあげられたことに、七海もほっとしたのだけど……。

「そうですか? そんなことは……、……あっ」

 自然に受けてしまってから、ハッとした。

 違う意味で目を見開くことになる。

 だってさっき呼ばれたのは……。

 サッと胸が冷えていく。

「あなたの本当の名前は、大平 七海さん、ですよね?」

 でも玖苑は穏やかな表情だった。

 確認するように聞いてくる。

 自然に受け答えしてしまい、しかもこんな反応が咄嗟に出た。

 今さら誤魔化せるわけはない。

 だが七海の胸には違う気持ちも浮かんだ。

 すなわち、誠意を持って打ち明けてくれた玖苑に、自分も同じ誠意で返したい、という望みだ。

 自分は打ち明けようともしなかったのだから、怒られても、失望されても仕方がない。

 でも本当のことを言おうと決意した。
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