代理お見合いに出席したら、運命の恋が始まりました~社長令息は初心な彼女を溺愛したい~
「代役を確信したのは、お見合いを終えてからでしたが……、それ以来、ずっと思っていました。本当の意味であなたに向き合って、本当の名前で呼び合いたい、と」

 言葉の通りに、玖苑は体の向きを少し変えて、七海に正面から向き合った。

 つられるように、七海も玖苑と向き合う体勢になる。

 七海を見つめる玖苑の表情は穏やかで、やはり愛おしげで……彼の気持ちが、表情ひとつにすら、はっきり出ていた。

 急速に熱くなってきた心臓を持て余しそうになりつつも、七海からも彼を見つめる。

 大切な言葉だとわかるから、しっかり聞きたい、と思う。

「七海さん。実は以前、七海さんの職場でお会いしたのですが、覚えておられますか?」

 しかし話は急に、違うほうへ行った。

 七海は目を瞬いてしまう。

 その七海を、どこか懐かしそうな目で見つめつつ、玖苑は話してくれた。

「一年半……ほど前のことでしょうか。俺の職場に新しい社内放送を取り入れることになって、それで七海さんの職場へお邪魔しました。その訪問のときに、『アナウンスを担当してくれた方』とご紹介されたんです」

 そこまで聞いて、七海はすべて理解した。

 確かにそんなことがあった。

 でもすっかり忘れていた。
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