この恋は偶然?いや運命です!
時計を見ると、もう21時を過ぎていた。

 舞は、隼とフェスバイトのことを話したかったが、チャンスがないままだった。

隼のリュックについている缶バッジは、彼自身も好きで、私もお気に入りのバンドのもの。

 しかも、フェス会場に行った人しか買えなかったものだ。

 舞が大学入学当時から使っている、両親から買ってもらった、5桁の値がつけられたトートバッグ。

 それに缶バッジの穴をあけるのは憚られた。
 
 舞は、悩んだ末に、スマホケースに仕込めるステッカーをいくつか購入したのだった。

 連絡先を聞くついでにスマホを出せば、彼なら気付いてくれると思ったが、その勇気がなかった。

 この合コン、失敗かな……

 せっかく誘ってくれたのに、と舞は眉を下げた。

「そろそろお開きにしようーー!

 まとめてお会計しておく!
 後日、平等に徴収、ってことで!」

ひよりがお会計をしている間、スマホを見ていた直哉くんが言った。

「帰れる?
 電車、人身事故で止まってる、ってよ!」

「えっ!?
 よりによって今日?

 あの路線止まると、私帰れないんだよね……」

 すみれが言う。

「河野さんも、遠いんですか?

 僕もです。
 実家から通ってるんで。

 うわ、親から電車止まってるけど、帰れるかってLINEきてる……」

 母親からのLINEに混じって、深月から連絡が来ていた。

『まだ二次会中?
 電車動いてないみたい!
 
帰れない人は店の前にいて!

 男子はミッチーが拾います!
 女子は私の家に泊めるよ!』

「ひよりちゃん、どうする?
 俺は帰れるけど、ちょっと遠いでしょ」

「どうしようかな……
 歩いて帰るのも道中、街灯ない道通るから不安で」

「電車が動くまで、俺の家いる?
 その方が安心でしょ。

 ひよりちゃんに何かあったら、俺、明日の講義に集中できないわ」

「もう、あんまりそういうこと、冗談だとしても、軽々しく言っちゃダメだってば。

 どの子にもそういうこと言ってるんでしょ。

 そういうノリのいいとこ、嫌いじゃないけど。

 ……ホラ、早く行こ!

 私を明日の2限からの講義に遅刻させる気?」

「分かったよ。
 ひよりちゃんを遅刻させるわけにいかないからね」

 
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