訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
森本(もりもと)さん、ご無沙汰しています。お元気ですか?」

「ええ、お陰様で。亜湖様もお変わりなくお過ごしのようで何よりです。本日は旦那様とのお約束でございますね?」

「はい。昼食に呼ばれました」

父から電話が入ったのは数日前のことだ。

年末年始はどうせ仕事で帰省できないのだろうから、その前に昼食でもどうだと誘われたのだ。

航空業界にとって年末年始は繁忙期のため、当然の如くCAに休みはない。

運良くオフという人もいるが、私の場合は国際線の乗務シフトが入っており、今年は上空で年越しということになりそうだった。

「旦那様はお忙しい亜湖様と久しぶりに昼食を共にできると楽しみにしていらっしゃいましたよ。客室乗務員となり亜湖様がご実家を出られてから、顔を見る機会が減って寂しいといつも嘆いておられますしね」

目尻を下げて微笑む、まさに好好爺といった雰囲気の森本さんは、玄関土間で靴を脱いで上がった私を昼食を取る部屋へと案内してくれる。

お屋敷の中は趣きある日本家屋風だが、リフォームが施されているため古臭い感じはしない。

とはいえ趣きある内装のため、外国人が喜んで見学したいと言い出しそうだなと客観的に思った。

「こちらで旦那様がお待ちです。本日は残念ながら大旦那様、大奥様、奥様、そしてご兄姉の皆様はご不在ですので、ご昼食はお二人でとなります」

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