訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
「要さん……! ちょっと歩くの早いです……!」
しばらくすると亜湖ちゃんが困ったように小さな抗議の声を上げ、繋いだ手を軽く引っ張った。
どうやら俺は無言のまま、歩くスピードにも配慮せずにズンズン進んでしまっていたらしい。
「……ああ、ごめん」
思わず立ち止まり、亜湖ちゃんの方を振り返る。
少し息を切らした様子の亜湖ちゃんは、失敗を見つかってしまった子供のように、バツの悪そうな顔をして上目遣いに俺を見た。
「その、助けて頂いてありがとうございました。この前もそうだったんですけど、あの人ちょっとしつこくて」
「この前? 知り合いだったの?」
「いえ、全然知り合いではないです。前にも道端で声を掛けられただけというか。今回は偶然の2度目です。しかもクリスマスってことで、なんか運命的な巡り合わせをあの人が勝手に感じちゃったみたいで。ほとほと参りました……」
亜湖ちゃんは、はぁぁと深いため息を零す。
その表情からあの男に対する好意の片鱗は一切窺えない。
そのことに俺は妙にホッとした。
「ああいう、突然男性から声を掛けられるのってよくあるの?」
「そうですね。そこそこあります。まぁ皆んな私の作り込んだ外面に引っかかってるだけですけど。でも今日はウンザリしすぎて思わず素が出ちゃいそうになりました」