訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
 ……あんな男に素を公開する事態にならなくて本当に良かった。亜湖ちゃんの素を見ることができるのは俺だけがいい。

安堵に続き、今度はそんな想いが胸の中で渦巻いた。

あまりにも自然に沸き起こってきた自身の感情に俺は瞠目する。

今までに感じたことのない、仄暗さを秘めた感情だ。

それが“独占欲”と呼ばれるものであることには不思議とすぐに気がついた。

初めての経験だが、理屈じゃなく、俺の感覚がそう訴えかける。

 ……前から亜湖ちゃんは素でいる時の方が魅力的だとは思っていたけど、いつから俺だけに見せて欲しいなんて思うようになったんだ……?

たぶん気づかぬ間に、だろう。

きっと魅力的だと思っていた頃から無自覚に惹かれていた。

いや、もしかするとノートを拾った頃からかもしれない。

そしてそんな無意識の感情を強烈に自覚させられたのがまさに今だ。

亜湖ちゃんが俺以外の男といるのを見て焦燥感を感じ、男が彼女の腕に触れているのが堪らなく不快で、彼女の素の姿は俺だけが独り占めしたいと強く思った。


 ……自覚するのが遅すぎだ。女心に疎いだけでなく、自分の感情にも鈍すぎるな俺。

なんとも不甲斐ない。

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