訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
「確かにあれを『花山粧の小説』だと思われるとちょっと悲しいね。ぜひミステリーを読んで印象をアップデートしてもらえると嬉しいよ」

私は本棚から要さんの著者を1冊手に取る。

ドラマを観たことがある『真夏の陽炎』を読むことにした。

ドラマで内容を知っているからきっとゼロベースで読むよりは話が頭に入ってきやすいだろう。

要さんも読みかけの本があるとのことで、私達はそれぞれ1冊ずつを手に、再びリビングへと戻った。

その後はコーヒーを淹れ直し、ソファーの上で各々が読書を楽しむ。

同じ空間にいるけれど、要さんも私も無言でそれぞれが本を読むというゆったりとした静かな時間が続いた。

だけど不思議と沈黙が苦ではなくて、むしろとても居心地が良かった。

いつもなら活字を追いかけることに時間がかかるはずなのに、今日は本もスラスラと読める気がする。

 ……ていうかこの小説、めちゃくちゃ面白い!

初めて読む『花山粧』のミステリー小説は、先の展開が気になりすぎて、ページを捲る手が止まらなくなった。

ハラハラドキドキしつつ、時に胸がギュッとなり、そして度肝を抜かれる驚きもある。

ドラマよりも各登場人物の心理描写が丁寧だし、状況描写も緻密で、どんどん物語に引き込まれた。

これはベストセラーになるのも納得だ。

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