訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
まるでお見合いで交わされる釣書のような問いだ。   

普通なら少しは面食らいそうな質問攻めだが、要さんに動揺はない。

こういった事態も予め予想していたらしくにこやかに答え始めた。

「年齢は亜湖さんより5歳年上の30歳です。職業は小説家をしております」

「まぁ! 小説家ですって、克敏さん。あなた小説お好きじゃない」

「ほぉ小説家とな。だが葉山要という名は聞いたことがないな」

父が小説を好むなんて初耳だった。

要さんの職業が小説家と聞いた途端、少し身を乗り出す父を見て、私は意外と家族のことを知らないのだなぁとしみじみ実感する。

もはやいつの頃からかは思い出せないが、家族に対しても取り繕ってきたからかもしれない。

そんなふうに密かに内省をする私を置き去りに、他の3人のやりとりは続く。

「葉山要は本名でして、小説家としてはペンネームの『花山粧』で活動しています」

「あら! 花山粧と言えば、『真夏の陽炎』や『涙に隠れた夜』の著者だわ! あらあら、本当に!?」

「よし、葉山くんと亜湖の結婚を認めよう! 結婚前提の交際、つまり今日から婚約者として過ごしなさい」

 ……はい!?

驚いたことに、ここにきて父が突然壊れた。

何を思ったのかいきなり婚約者認定をし始めたのだ。


「ご両親に認めて頂けて嬉しいです。ありがとうございます! これからもよろしくお願いします」


それに対して、要さんは非常に嬉しそうに顔を綻ばせている。

父と熱い握手まで交わし出した。

どうやら父は小説家『花山粧』の大ファンだったらしい。

要さんがまさにその本人だと知って、私達の結婚話を即決したようだ。

曰く、「政治家たる者、直感と迅速な判断が重要」だという。


こうして私は、要さんと“恋人”になった翌日、驚くべき速さで“婚約者”へとクラスアップを果たしたのだった。


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