訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
ぷりぷり怒りつつ、軽く睨み付けると、懲りない要さんは私を腕の中に囲い込んでギューッと抱きしめてきた。

そして薬指に指輪が光る左手を私の頬に添えて、ふわりと唇を重ねる。

「んっ」

小さく喘ぐと、いつの間にか眼鏡を外していた要さんはさらにキスを深めていく。

唇の隙間を割り裂いて侵入してきた舌が、ゆっくりと隅々まで味わうように口内を舐め尽くし、私はもう息も絶え絶えだ。

次第に頭がフワフワとしてきて、すっかり怒りなど吹き飛び、ただただ甘美な心地に酔いしれる。


「亜湖ちゃん、記事に書いてあった後で本人に伝えるっていう言葉、なんだと思う?」

すると、要さんは唇を一度離し、突然こんなことを訊ねてきた。

てっきりあのインタビューの場で適当に言っただけだと思っていたのだが、なにか私に伝えたい言葉でもあるのだろうか。

顔を覗き込んで訊ねてくる要さんに、私は小さく首を傾げる。


「知りたい?」

「え? はい」

私の返事に要さんの瞳が蕩けるように甘やかになる。

その瞳に釘付けになっていると、そっと耳元で要さんがささやいた。


「亜湖ちゃん、愛してるよ」


剥き出しの心に届いた愛の言葉に、私がどんな反応をしたのか、そして要さんが次にどんな行動に移ったのかは推して知るべし。



恋人ごっこから本物の恋人へ。
その翌日には婚約者へ。

< 203 / 204 >

この作品をシェア

pagetop