訳ありイケメンは棘持つ花に魅入られる
いつ葉山さんから呼び方を変えようと提案がくるんだろうと恋人役としては待ち構えていたのだが、一向にその気配は窺えず。

満を持してツッコませてもらった次第だ。


「なるほど、確かに今の呼び方だと他人行儀かもね」

「ですよね? なので、名前の呼び捨てだったり、ちゃん呼びだったり、あだ名だったりで呼ばれると女性は喜ぶと思います」

「じゃあ――……亜湖ちゃん?」


その瞬間、ドキッと鼓動が飛び跳ねた。

自分から指摘し、名前を呼ぶよう促しておいて動揺するとは、なんとも滑稽である。

 ……思わずゾクッて腰にくるような、この低音ボイスが悪いッ!

私は心の中で悪態を突きながら、表面上は冷静を装う。

こんなことでいちいち動揺していたら、恋愛コンサルなんてできない。

見返りだってもらえる予定だし、引き受けたからにはちゃんと最後まで真っ当するつもりだ。

「はい、そんな感じでバッチリです! それなら私は……そうですね、『要さん』でどうですか?」

呼び捨ての『要』、くん呼びの『要くん』も候補にして考えてみたけれど、どうにもしっくりこなかった。

私の方が5つも年下だし、さん呼びの方が自然な響きだろう。

「来栖さんに……あ、違った。亜湖ちゃんにそう呼ばれるのはなんか新鮮だね」

「私も要さんから亜湖ちゃん呼びされるのは新鮮です。じゃあ今後は名前呼びに切り替えてやっていきましょう」

「分かった」

「あ、あと今後の予定ですけど、しばらくはテーマを夜デートに固定しますね。社会人カップルにとって、1番頻度が高いシチュエーションですし、要さんが直面する機会も多いと思うので」

今後の恋愛コンサルの予定を簡単に説明し、私が4杯目を、葉山さんが2杯目のドリンクを飲み干したところで今日のデートは解散となった。


それから私と要さんは予定通り何度か夜デートを重ね、気づけば秋から冬へと季節は移り変わっていた。

そして恋愛コンサルを始めて約2ヶ月半。

まもなく恋人達にとっての一大イベント――クリスマスが目前へと迫っていた。


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