溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
彩花がにやりと笑う。
「ふふっ、はじめまして。真白の友人の中村彩花です。あまりにお似合いだったので、真白の彼氏かと思っちゃいました」
その言葉が、春風よりも強く胸の奥を揺らした。
神城さんは笑みを浮かべて、穏やかに頭を下げる。
「ありがとうございます。――そうなれるように、頑張ります」
「え……」
彩花が去ったあと、
その言葉の意味を確かめられないまま、
わたしはただ手に持つ紙袋を強く握りしめた。
その言葉のあと、一瞬だけ風の音が消えた気がした。
(そうなれるようにって……わたしの彼氏になりたいってこと……?)
その響きが、胸の奥にやさしく、けれど確かに残っていた。
彩花が通りの角を曲がって見えなくなると、街の喧騒が少し遠のいたように感じた。
隣を歩く神城さんの足音だけが、静かに響いている。
さっきまで胸の中で暴れていた鼓動が、まだ落ち着かない。
「……さっきの、びっくりしました」
「何のことです?」
「“そうなれるように頑張ります”って……。あれ、冗談ですよね?」
「どう思いました?」
「え……」