溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
彼の目が、真っすぐにわたしを捉える。
その静かな光に、逃げ道がなくなる。
(どうして……そんな目で見るの)
「……こ、煌さん」
「“さん”はいりません」
「……煌」
自分の声が思っていたよりも小さく響いた。
その瞬間、煌の表情が少しだけ緩んだ。
「……うん。その呼び方、いいですね」
(……やっぱり、ずるい人だ)
照れくさくて視線を逸らすと、煌はふっと笑って、筆を置いた。
「今、少しだけ距離が近づいた気がします」
「え?」
「あなたが僕を名前で呼んだ。それだけで、この部屋の空気まで少し温かくなった気がする」
その言葉に、何も言えなかった。
頬が少し熱い。
(どうして、こんなに心臓が落ち着かないの……)
けれど、どこか嫌じゃなかった。
むしろ、この小さな変化を――
心のどこかで、ずっと待っていたのかもしれない。