溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
ティーカップから立ちのぼる湯気が、淡く揺れていた。
アトリエの窓の外では、午後の光がゆっくり傾き始めている。
「今日も、香りがいいですね」
煌が微笑みながら言った。
テーブルの上には、真白が焼いた小さなレモンケーキ。
「香りばかり褒めますね」
「それが僕にとって、絵を描く原点なんです」
あまりに自然に言われて、返す言葉を失った。
(……こういうところがずるい)
ティーカップを取ろうとしたとき、スマートフォンがテーブルの端から滑り落ちた。
「――あ」
「危ない」
煌が素早く手を伸ばし、床に落ちる前にそれを受け止めた。
そして、何気なく裏面を見た瞬間――彼の指が止まる。
「……これ」
透明なケースの中に、イベントで彼が描いてくれたポスターが入っていた。
金色のケーキと、春の光。
部屋に飾ってあるものを縮小して入れてあったものだ。