溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「い、いえ……お気になさらず」
「よかった。あのとき、僕ちょっと舞い上がってたんです。久しぶりに“おねーさん”を見つけて、テンション上がっちゃって」
「……はあ」
苦笑いで返すしかなかった。
彼はショーケースの中を見つめながら、しばらく真剣な表情でお菓子を眺めていた。
「今日も……おねーさんのケーキは、ないんですか?」
まっすぐな視線が向けられ、息が止まりそうになる。
「……ありません」
「そっか」
彼は残念そうに口角を下げたが、すぐに笑みに戻った。
「じゃあ、焼き菓子をいくつかください」
「はい。どれにしますか?」
「どれも美味しそうだけど……今日はこのフィナンシェを」
彼はそう言って、指先で指した。
その仕草はどこか丁寧で、以前見たときよりも大人びて見えた。
会計を済ませ、紙袋を手渡そうとした瞬間、彼の指がわずかにわたしの手に触れた。
その瞬間、心臓が跳ねる。