溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
第17章 いつでも支えてくれる、らしい。


昼下がりの厨房には、焼きたてのタルトの香りがふわりと漂っていた。

イベントが終わってから数日、いつもの日常がゆっくりと戻ってきている。


わたしはショーケースの中を拭きながら、やわらかな光に包まれたケーキたちを見つめた。


そのとき――


「真白ちゃん、ちょっといいかしら?」


声をかけたのは、芙美子さんだった。

隣には、ご主人も腕を組んで立っている。


二人の表情はどこか落ち着かないようで、けれど優しさが滲んでいた。


「どうしたんですか?」

「ええとね……ちょっと、驚かせちゃうかもしれないけど」


奥さんがそう言って、ご主人と目を合わせる。


「昨日、有名なパティスリーのシェフから連絡があったのよ。“ぜひ真白さんをスカウトしたい”って」

「……え?」


思わず、手にしていたクロスを取り落としそうになった。


「スカウト……って、わたしがですか?」

「そう。あの〈パティスリー・ラ・グランジュ〉のオーナーシェフさん。イベントで真白ちゃんのケーキを食べて、ずっと気になってたって。“ぜひ一度話がしたい”そうよ」

「え、そんな……あのお店って……」


名前を聞くだけで胸が高鳴る。

テレビや雑誌で何度も見た、有名な洋菓子店。

全国からファンが訪れるような場所だ。

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