溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


ご主人が、ゆっくりと口を開いた。


「俺たちとしても、誇らしいよ。真白ちゃんの腕を見込まれたんだ。でも……正直、ちょっと寂しいな」

「寂しい?」

「そりゃそうさ。うちに来たときは、あんなに緊張してた子が、今じゃ店を引っ張ってくれる職人だもんな」


その言葉に、胸の奥が熱くなった。


「……そんな、わたしなんて、まだまだです」

「そんなことないよ。真白ちゃんのケーキを食べに来るお客さん、ずいぶん増えたじゃない」


奥さんがやわらかく笑う。


「だからこそ、チャンスだと思うの。もちろん無理にとは言わないわ。ただ、もし真白ちゃんが新しい環境に挑戦したいなら、私たちは喜んで背中を押してあげたいの」


優しさに包まれた言葉なのに、心の奥で小さく痛むような感覚があった。


(……チャンス、なんだよね)


夢のような話。

でも、すぐに頷けない。

< 159 / 182 >

この作品をシェア

pagetop