溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
ご主人が、ゆっくりと口を開いた。
「俺たちとしても、誇らしいよ。真白ちゃんの腕を見込まれたんだ。でも……正直、ちょっと寂しいな」
「寂しい?」
「そりゃそうさ。うちに来たときは、あんなに緊張してた子が、今じゃ店を引っ張ってくれる職人だもんな」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
「……そんな、わたしなんて、まだまだです」
「そんなことないよ。真白ちゃんのケーキを食べに来るお客さん、ずいぶん増えたじゃない」
奥さんがやわらかく笑う。
「だからこそ、チャンスだと思うの。もちろん無理にとは言わないわ。ただ、もし真白ちゃんが新しい環境に挑戦したいなら、私たちは喜んで背中を押してあげたいの」
優しさに包まれた言葉なのに、心の奥で小さく痛むような感覚があった。
(……チャンス、なんだよね)
夢のような話。
でも、すぐに頷けない。