溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「真白ちゃん、最近、例の“スイーツ好きが歌”は呟いてないの?」
ふいに奥さんが声をかけてきて、わたしは思わず笑ってしまった。
「チェックはしてるんですけどね。昨日と今日は呟いてないみたいですよ。芙美子さんも結構気に入ってますよね」
「そうね。普通に“おいしい”って言えばいいのに、いちごタルトを“真昼の太陽を抱いた宝石”なんて……。よく思いつくわ」
「ですよね。でも、意外とクセになるんですよね、ああいう表現。しかも、読むと実際にそういう景色が広がるっていうか……」
わたしは言いかけて、ふっと息を飲んだ。
言葉にしてしまうと、自分もあの匿名の誰かと同じように、奇妙な感覚を抱いていると知られてしまう気がして。
奥さんの芙美子さんは、そんなわたしの心の揺れを知ってか知らずか。
穏やかな笑みを浮かべている。
この洋菓子店を営むご夫婦はわたし、桐谷真白に、本当の娘のように接してくれる。
縁あってこの店で働くことになり、気づけばもう5年を超えていた。
わたしは、ご夫婦のこの洋菓子店を転職する気が全く起きないほど気に入っている。