溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「真白ちゃん、そろそろ休憩にしたら?」
「はい」
小さく頷いてカウンターから離れ、わたしはポケットからスマホを取り出した。
Xを開くと、やはり“スイーツ好きが歌”の更新は途絶えたまま。
(いつ見ても“スイーツ好きが歌”っていうアカウント名、不思議よね。“歌”が入っているから音楽好きの人かもって思ったけど、音楽に関するツイートはないし)
ここ数日、新しい投稿がなくて少し寂しい。
この人の言葉遊びを読むのは、わたしの日常の小さな楽しみだったのに。
溜め息をひとつ落としたとき――
カラン、とドアの鈴が鳴った。
顔を上げた瞬間、夕暮れの光を背に、ひとりの男性客が静かに足を踏み入れてきた。
(お客さん……!)
慌ててカウンターへと戻り、営業スマイルを整える。
ここは常連が多い店だけれど、その男性は見覚えがなかった。
背が高く、黒のコートに身を包んだ姿は、どこか異質な雰囲気をまとっている。
「いらっしゃいませ」
声をかけると、彼はゆっくりと視線をこちらに向けた。
――その瞬間、心臓が跳ねた。
まっすぐに射抜くような眼差し。
見知らぬはずなのに、なぜか背筋が冷たくなった。
「……やっと、見つけた」