溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
背後から、ゆっくりと近づく足音がした。
「この絵、気に入ってくれましたか?」
穏やかな声に振り返ると、神城さんがそこにいた。
さっきよりも少しだけ近い距離で。
「……ええ。すごく、きれいです」
そう答えると、彼は嬉しそうに目を細めた。
「この作品は、見る人によって、まったく印象が違うんです。“溶けていく”と感じる人もいれば、“浮かび上がる”って言う人もいる」
「……たしかに、どちらにも見えます」
「真白さんには、どう見えましたか?」
少し考えてから、ゆっくりと言葉を探す。
「……消えていく、かな。でも、悲しい感じじゃなくて。あたたかい光の中に、溶けていくような……そんな絵でした」
神城さんはその言葉に、短く息を吐いて笑った。
「やっぱり、そう感じるんですね」
「やっぱり?」
「いえ……ちょっと、そうなる気がしてたんです」
ふっと目を伏せた彼の表情は、どこか懐かしそうだった。
沈黙が落ちる。