溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「でしょうね」
彼は苦笑した。
けれどその瞳の奥では、何かがかすかに揺れていた。
優しさと、狂気の境目のような光。
「でもね、真白さん。“困る”って言われると、なぜか嬉しいんです。あなたが、僕を“嫌っている”んじゃなくて、“悩んでくれてる”証拠だから」
沈黙。
息が詰まる。
彼の声が、ゆっくりと近づいてくる。
「……ごめんなさい。今のは、忘れてください。少し焦っていたみたいです」
言いながら、彼の指先はまだテーブルをなぞっていた。
忘れようとしているのは、きっと彼自身のほうだった。
神城さんは立ち上がり、窓の外を見つめた。
暮れかけた空の色が、彼の横顔を淡く照らす。
「暗くなってきましたね。送ります」
「大丈夫です、一人で帰れますから」
「それでも、送ります」
その言い方は、静かだった。
でも、拒めない強さがあった。
わたしは小さく頷くしかなかった。