溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「作品のイメージを掴むには、香りや空気を感じたいんです。厨房の匂い、あなたの動き、手の形。全部、見ておきたい」
(……また、通うってこと?)
胸の奥がかすかに高鳴る。
彼がこの店に来るたびに、きっとあの空気が少しずつ変わってしまう。
それを、どこかでわかっていながら――わたしは拒めなかった。
「……はい。お待ちしています」
神城さんの微笑みは、夜の光に溶けるように柔らかく、
けれどその奥には、確かに“狂気に似た熱”が潜んでいた。
それが、なぜか少しだけ――心地よかった。
それから数日。
神城さんは、本当に店に通うようになった。
最初は週に一度。
それが、いつの間にか週の半分になり――
気づけば、ほとんど毎日のように顔を見せるようになっていた。
「おはようございます」
開店のベルが鳴る少し前。
まだカウンターの拭き掃除をしている時間に、ドアが静かに開く。
「今日も早いわね、神城くん」
芙美子さんが笑うと、神城さんはいつものように軽く頭を下げた。