溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
「イベントの日に、もし来てくれたら、そのときに……」
そう言いながらも、胸の奥に微かな緊張が走る。
――彼なら、きっと来る。
その確信にも似た予感が、心のどこかで静かに光っていた。
カウンターには、神城さんが描いたイベント用ポスターが置かれている。
そこには、淡い金色の光を抱いたケーキの絵があった。
まるで、新作をあらかじめ知っていたかのような色合いだった。
(……やっぱり、すごい)
筆の中に込められた温度が、まるで自分の心を見透かされているようで、
どこか落ち着かない。
けれど――
それでも、今日だけは素直に思えた。
(また、“作りたい”と思えたことが、嬉しい)
厨房の窓から差し込む陽射しが、ケーキの表面でやさしく揺れる。
それはまるで、長い眠りのあとに訪れた朝の光のようだった。
その光の中で、わたしはもう一度、生地に触れた。
この手で、また何かを作っていける――そう思えた。