溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
商店街のイベント当日。
朝から空はよく晴れていて、春の陽射しが通りに並ぶ屋台のテントを明るく染めていた。
風に乗って、焼き菓子とコーヒーの香りが混ざり合う。
人の笑い声や呼び込みの声が重なって、まるで街全体がひとつの大きな息をしているようだった。
店のブースには、小さなテーブルと木箱を並べて、新作ケーキを中心に焼き菓子が並べられている。
白い皿の上には、淡い金色のケーキ。
表面の艶が陽射しを受けてやさしく光っていた。
「真白ちゃん、いい出来だね」
旦那さんが笑って頷き、芙美子さんは紙袋を整えながら言う。
「最初のお客さんが食べてくれる瞬間って、やっぱり緊張するわよね」
「はい……でも、不思議と楽しみでもあります」
そう言いながら、真白は胸の奥をそっと押さえた。
手のひらがわずかに汗ばんでいる。
けれど、それは“怖さ”ではなく“生きている実感”に近かった。