溺れるほど甘い、でも狂った溺愛


彼の声、視線、香り。

どれも甘くて、心地よくて、でもどこか、危ない。


(……どうしてこんなに、思い出すんだろう)


窓の外では、街灯がゆらめいていた。


その光の下で、

わたしは知らないうちに、神城さんの描く“色”の中に

少しずつ溶けていっているような気がした。


それが、怖くもあり――

少しだけ、嬉しくもあった。




休日の午後、空は薄く曇っていた。

商店街の角を曲がると、春の風が紙袋の端を揺らした。

今日は、芙美子さんに頼まれて買い出しに出ていた帰り道。

焼き菓子の材料が詰まった袋が、思ったよりも重い。


(……この通り、久しぶりだな)


ふと、あのイベントの日のことを思い出す。

あのあと、神城さんは数日おきに店へ顔を出すようになり、“モデル”としての付き合いも続いていた。


その関係が、いつの間にか日常の一部になっていた。

危ういのに、心のどこかで安心してしまう――そんな日々。

< 98 / 182 >

この作品をシェア

pagetop