溺れるほど甘い、でも狂った溺愛
彼の声、視線、香り。
どれも甘くて、心地よくて、でもどこか、危ない。
(……どうしてこんなに、思い出すんだろう)
窓の外では、街灯がゆらめいていた。
その光の下で、
わたしは知らないうちに、神城さんの描く“色”の中に
少しずつ溶けていっているような気がした。
それが、怖くもあり――
少しだけ、嬉しくもあった。
休日の午後、空は薄く曇っていた。
商店街の角を曲がると、春の風が紙袋の端を揺らした。
今日は、芙美子さんに頼まれて買い出しに出ていた帰り道。
焼き菓子の材料が詰まった袋が、思ったよりも重い。
(……この通り、久しぶりだな)
ふと、あのイベントの日のことを思い出す。
あのあと、神城さんは数日おきに店へ顔を出すようになり、“モデル”としての付き合いも続いていた。
その関係が、いつの間にか日常の一部になっていた。
危ういのに、心のどこかで安心してしまう――そんな日々。