秘書の想いは隠しきれない

解決

 三週間後――。

 私は社長に言われ、自宅待機をしていた。
 そしてモニターに映っている社長と恵梨香さんを見つめている。

 社内では、神木朝陽社長と千石恵梨香さんの正式な婚約会見が開かれていた。
 両者、千石会長や副社長クラスの社員が集まっている。
 本来であれば、結婚により会社が統合するっていう報告だろうけれど。

 私はモニターを見ながら、社長を見守っている。

「本日はお集まりいただき、ありがとうございます……」

 千石会長の長い話が続き、次に神木社長がマイクを持った。

「私は神木商事の今後の発展を望んでいます。そこで皆さんに見ていただきたい映像があります。この真実を見て、皆さん、判断をしてください」

 唐突な社長の発言に会場がザワザワしているのがわかる。

 そこに映っていたのは
<けいちゃん、大好き。バッグ、どこのブランドがいいの?どうせパパのお金だし、好きなもの選んで良いよ。パパのお金っていうか、会社のお金だけどね>
 これは、うちの会社のエントランスだ。

 防犯カメラに映っていたの?

「おい!どういうことだ!?」

 千石会長は映像を止めろと言っている。

 そして<社長に謝ってください!>と伝えている私の頬を叩く映像が流れ<私に逆らったこと、後悔させてやるから。あんたの家族みんな、普通の生活ができると思わないで>先日の社長室での出来事が映された。

<私は朝陽に一ミリも恋愛感情なんてないわ。ただお金のために付き合っているだけ>

 恵梨香さんの言葉が続く。

「これは作られた映像だ!AIか何かだろう?誰がこんなつまらないものを!」

 千石会長だけが大きな声をあげている。
 他の社員は黙ってはいるが、顔が引きつっている。恵梨香さんの顔も動揺を隠せていないみたい。

 それはそうだ。これは作られたものではないんだから。

「私はこの婚約を破棄します。理由は明確です。映像に映された通り、会社の資金を使って、私欲を満たしている人を許したくはありません。立場を利用し、大切な社員を傷つける人間も許せない。千石グループの私的流用は長年に渡っています。このようなグループと提携を結んでいること事態、疑問に感じています。この後役員総会を開き、業務提携について協議していきたい。私は、神木商事を終わらせたくありません」

 神木社長の言葉が終わると
「うそよ!誰かが私のことハメたのよ!」
 恵梨香さんが立ち上がり、見ている社員に向かって叫んだ。

 神木社長は落ち着いた声で
「ここに映された映像は本物です。専門機関に鑑定をしてもらっても構いません」
 そう言い切った。

 静まり返る会場で
「私は神木社長を信じます」
 誰かが発言したのをきっかけに、拍手が沸き起こった。

 私も画面を見ているが、泣きそうだ。
 この場でこんなことをしちゃうなんて。
 神木社長のことだ。まだまだ千石グループが不利になるような情報を集めているんだろうな。

 その後、婚約会見はもちろん中止となり、緊急の総会が開かれることになったらしい。

 神木社長から
<俺、もうちょっと頑張るから。応援してて>
 メッセージが届いた。忙しいはずなのに。

<頑張ってください>

 私も返事を送る。
 どうか神様、無事に終わりますように。

 一週間後――。
 あれから神木社長と会っていない。
 電話やメッセージはしてくれるから、ある程度の状況や大変なのはわかっている。
 私が秘書として近くにいたら、力になれることがあるかもしれないのに。無力な自分に腹が立つ。

 自宅で神木社長の写真を眺めていた時<ピンポーン>インターホンが鳴った。

 相手を確認すると
「神木社長!?」
 今日家に来るなんて言ってなかったのに。

 慌てて玄関ドアを開けると社長が立っていた。
 何か月も数年も会っていないわけではないのに、私は社長に思いっきり抱きついた。

「っ……!花蓮さん!?」

 いきなり抱きつかれた社長は驚いているようだ。

「会いたかったです」

 素直に気持ちを伝えると
「俺も、すごく会いたかったよ。待たせてごめんね」
 よしよしと頭を撫でてくれた。

 私はもう抑えられないくらい、神木社長のことが大好きだ。

 社長に家の中に入ってもらい、あの映像後の出来事を直接聞いた。
 千石グループとは提携を切り、恵梨香さんとも関係がなくなったこと。今、千石グループの内部で家族間の私的流用について問題になり、マスコミに問われていること。恵梨香さんが気に入っていたあの本並という男性がいわゆる暴露系の配信者だったらしく、お金のために様々なことを告白しているらしい。

「あー、疲れた。だけど花蓮さんの顔見たら、元気になったよ」

 神木社長の頭が私の肩に寄り掛かっている。
 ビクっと緊張して身体が硬直する。
 さっきは自分から抱きついていたのに。

 そんな私のことをハハっと笑い
「ここからは真剣な話ね」
 身体を起こした社長は、私のことを真っすぐ見つめた。

「花蓮さん、俺と付き合ってください」

 私は神木社長のとなりに居ても良い人間なのかな。私なんかが……。

「俺は他の誰でもない、花蓮さんが良いの。花蓮さんじゃなきゃダメだ」

 私は、私は……。

「私も神木社長が好きです。大好きです。昔からずっと。私で良かったら付き合ってください!」

 顔が熱くて、火が出るんじゃないかと思うくらい。
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