無自覚悪役令嬢と婚約式
苦々しくメイナードが告げるのに驚いて、ハンナは振り返る。そして息を飲んだ。
この頃のハンナは、なんとなくではあるがこの世界が何の作品だったのかを思い出していた。そして、原作でメイナードが誰を好きだったのかについても。
「……そうね、メイナード。辛いことだと思うわ。でも判って欲しいの」
「判ってやれる訳がないだろう! 俺は……っ俺だって、好きなのに……!」
腕を握りこむ力を強くして、メイナードは言う。彼が想いを直接口にするのはこれが初めてだった。その姿をハンナは痛ましく思うが、どうしようもないことである。婚約は、既に決まってしまっている。
「メイナード……」
その苦しみを労わるように、ハンナは彼の手を撫でる。それに弾かれるようにして、顔をあげたメイナードは困ったような表情のハンナを見てとると、くしゃりと顔を歪めた。
「ハンナ、俺は」
「メイナードが私を好きだったなんて、知らなかったわ」
真剣な顔でメイナードが言い募ろうとしたのを遮ったのは、玄関ホールに続く階段に現れた令嬢だった。結い上げたハニーブロンドには贅を凝らした宝石の髪飾りをさしており、身体にまとったドレスは豪奢にも関わらずそれが嫌味にならない着こなしである。そんな令嬢が、メイナードを見て呆れた顔をしている。ハンナと比べると、月と太陽ほども印象に差があった。
「エミリア!」
暗い顔をしていたハンナが、令嬢――エミリアの姿を見止めて再びぱあっと顔を輝かせる。
「もう準備終わったの? もっと時間がかかると思っていたわ。やっぱり私の見立ては完璧だったわね。凄く似合ってる! 最高よ! これでエミリアの婚約式もばっちりね!」
「ん?」
ハンナの腕を掴んだままだったメイナードの顔が、苦しみを耐えるものから疑問を浮かべたものに変わった。ハンナはハっとしてメイナードを振り返ると、しっかりと彼の手を握りこんで、真剣な顔で彼に懇願する。
「この婚約を悪く思わないで。エミリアが選んだんだもの、エミリアはきっと幸せになるわ。だからエミリアのことは諦めて。お願い、メイナード」
この頃のハンナは、なんとなくではあるがこの世界が何の作品だったのかを思い出していた。そして、原作でメイナードが誰を好きだったのかについても。
「……そうね、メイナード。辛いことだと思うわ。でも判って欲しいの」
「判ってやれる訳がないだろう! 俺は……っ俺だって、好きなのに……!」
腕を握りこむ力を強くして、メイナードは言う。彼が想いを直接口にするのはこれが初めてだった。その姿をハンナは痛ましく思うが、どうしようもないことである。婚約は、既に決まってしまっている。
「メイナード……」
その苦しみを労わるように、ハンナは彼の手を撫でる。それに弾かれるようにして、顔をあげたメイナードは困ったような表情のハンナを見てとると、くしゃりと顔を歪めた。
「ハンナ、俺は」
「メイナードが私を好きだったなんて、知らなかったわ」
真剣な顔でメイナードが言い募ろうとしたのを遮ったのは、玄関ホールに続く階段に現れた令嬢だった。結い上げたハニーブロンドには贅を凝らした宝石の髪飾りをさしており、身体にまとったドレスは豪奢にも関わらずそれが嫌味にならない着こなしである。そんな令嬢が、メイナードを見て呆れた顔をしている。ハンナと比べると、月と太陽ほども印象に差があった。
「エミリア!」
暗い顔をしていたハンナが、令嬢――エミリアの姿を見止めて再びぱあっと顔を輝かせる。
「もう準備終わったの? もっと時間がかかると思っていたわ。やっぱり私の見立ては完璧だったわね。凄く似合ってる! 最高よ! これでエミリアの婚約式もばっちりね!」
「ん?」
ハンナの腕を掴んだままだったメイナードの顔が、苦しみを耐えるものから疑問を浮かべたものに変わった。ハンナはハっとしてメイナードを振り返ると、しっかりと彼の手を握りこんで、真剣な顔で彼に懇願する。
「この婚約を悪く思わないで。エミリアが選んだんだもの、エミリアはきっと幸せになるわ。だからエミリアのことは諦めて。お願い、メイナード」