無自覚悪役令嬢と婚約式
 ごくごく真剣な顔でハンナが言うのに、メイナードは更に眉間の皺を深くした。階段の上にいるエミリアは笑いをこらえるような顔をしている。

「ちょっと、待ってくれ……今日は、エミリアが婚約するのか?」

「そうよ。当たり前じゃない」

「ハンナが婚約するんじゃなくて、か……?」

「そんな相手がいないの、あなた知ってるでしょう? 嫌味なの?」

 むう、っと頬を膨らませてハンナが言うのに、メイナードは脱力して深い深い溜め息を吐いた。

「お姉様、メイナードはお姉様が婚約すると思って、慌ててうちに来たのよ」

 くすくすと笑いながら、エミリアは階段を降りてくると、未だハンナの腕を掴んだままだったメイナードの手をやんわりと離させる。

「私が婚約すると思って? なんで?」

 訳がわからないことを言わないで、とハンナは顔をしかめたが、エミリアはますます笑いを深める。

「それはメイナードに聞いた方がいいんじゃないの? ねえ、メイナード?」

 笑い交じりに言われた言葉に、メイナードはかっと頬に朱を登らせた。

「うん、赤くなってないわね。良かった」

 メイナードに掴まれていたハンナの腕を検分して、エミリアは安心したようにハンナの腕を離す。

「じゃあ、私はまだ準備があるから。お姉様、メイナードの相手をお願いできる?」

「やだ、まだ終わってなかったのね。大丈夫?」

「大丈夫よ、あと少しだもの。メイナードが急に来たっていうから様子を見に来ただけよ」

 ふふ、と笑ってハンナに言ってから、エミリアはメイナードに目を向ける。

「メイナード、私の婚約式に出て祝福してくれるんでしょう?」

「あ、ああ……」

 呆然と答えたメイナードに、エミリアはまた笑って踵を返した。そうして、背中越しに手を振りながらメイナードに声をかける。

「想いはちゃんと口にしないと伝わらないわよ、メイナード」

「な……!」

 顔を赤くしたメイナードが叫びそうになったが、ハンナが目に入って彼は口をつぐんだ。

「……メイナード、本当にお祝いしてくれるの? エミリアのこと」

「あ、ああ。もちろんだ」

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