乙女ゲームのメインヒーロー、なぜかヒロインから溺愛周回攻略されてます

8周目の【ストーリー】の狭間で

8周目 閑話

 何故か、イベントとイベントの間に、ストーリーにない時間が出来始めている。

 イベントとイベントの隙間の時間は存在せず、イベント開始時に場面が転移するのが通常だ。しかし、今はイベントが終了した後に会話する時間が長かったり、移動の時間や食事の時間があったりする。まるで本当の旅をしているかのような時間が存在するのだ。

 時間の隙間が発生しはじめたのは、前回の7周目の途中からだろうか。

「しっかし、ミヒャエル様と話すのも何か久しぶりな気がするね?」

 宿で夕食をとり終えて、ベッドに腰掛けながらのカイルの言葉だ。当然、今もストーリー外の時間である。

 基本的にはストーリーの中で、攻略キャラクター同士の会話は少ない。指摘されてみればカイルと、雑談らしい雑談をすることはなかった。いや、カイルだけじゃなく他のメンバー全員そうだ。久しぶりどころか初めてなのではないか。

「無駄口をお前と叩く気はないからな」

「おっ? なーんかそういう辛口コメントも懐かしいね。ミヒャエル様ずっと王子様仮面被ってたから」

「王子様仮面とは何だ」

 嘆息して荷解きをする。

 カイルにはああ言ったが、彼の言わんとしている事はわかる。

 ヒロイン相手でもない幕間は、ゲームの範疇ではない。だから私はメインヒーローの芝居をする必要は無いと思っている。

 だからこそ私は、『ゲーム外』にできたこの時間内では、メインヒーローの口調を敢えては演じない。

「ホント、なんでカナエ様の前じゃあんなに猫被ってるんだろうね、この王子様は」

「ゲームの役割を果たしているだけだろう」

「ゲームねえ……」

 やれやれと肩をすくめて見せてみせたカイルは、そのままベッドに寝そべってしまった。何を言わんとしているのかは、背を向けているので表情が読み取れず判らない。

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